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ブラジルの連帯経済 
サトウキビ労働者協同組合、製糖工場48棟で4,300世帯を支援

翻訳:池上圭介

2009 年1月11日(IPS)
マリオ・オサバ(リオ・デ・ジャネイロ)

ハーモニー・アグリカルチャー・カンパニーは、ブラジル連帯経済最大の労働者による自主管理企業となっている。当社は、2万6,000ヘクタールの土地を耕作する4,300世帯に雇用をもたらしており、主要な事業は製糖工場48棟での砂糖の生産である。

1993年に当社が経営危機に陥った時、労働者と組合が最初に示した反応は、解雇された2,300人の労働者の未払い賃金や退職金の受け取りを確保しようとするものだったが、それから2年後、組合は異なるアプローチを取った。

労働者と組合にとっての目標は、ブラジル北東部に位置するペルナンブーコ州カテンデー郡の経済にとって不可欠な活動を継続しつつ、失った職を取り戻し、今ある職を維持することだった。

そこで彼らは、会社のオーナーたちに破産宣告するよう求め、司法による管理の下で会社の経営を引き継いだ。その後、砂糖の生産を再開し、その他の農業・工業活動へと事業範囲を広げた。

サトウキビの生産地域と多様な家族農業は、5つのムニシピオ(市・郡に相当するブラジルの行政区分)に広がっている。ここでの砂糖の生産は、「サンパウロ(国民産出量の半分以上を占める南部の州)での生産よりも少し高くつくが、私たちのモデルはプロジェクトを持続可能なものにしている」と、カテンデー・ハーモニアの名でも知られているこのプロジェクトの技術顧問であるレビアルド・リマ氏がIPSの取材に答えた。

リマが挙げるモデルは、協同組合型でかつ自主管理型であり、経済的連帯に基づいている。多くの場合、サトウキビ栽培や精製工場労働者は、「農業協同組合に基づく家族農業システムの下で」、キャッサバ、フルーツ、トウモロコシ、ジャガイモなどを栽培し、家畜の飼育も行っている。地元の地形は、サンパウロに見られるような機械による収穫に適していないが、このことがかえってより多くの雇用を創出し、「社会的包摂という目的を達成させ」、より良い所得の再分配につながっている。これらの要因が、地方自治体に恩恵をもたらし、地域経済を押し上げているのだ、とリマは語る。

カテンデー・ハーモニアは、民間企業が従業員の手で経営破綻から救出され、再建を果たした好例だ。労働・雇用省国家連帯経済局次官補のファビオ・サンチェス氏によると、ブラジルにはこのような事例が200はあるという。

公式統計によると、ブラジルの連帯経済セクターはおよそ約2万2,000社の連帯に基づく企業(EES)によって構成されており、200万人近い労働者を雇用している。1億8,800万人以上の人口を有し、そのうちの半数が労働年齢にあるブラジルでは決して多い数字とは言えないが、急速に拡大しつつある新しい現象である、とサンチェスはIPSに語った。

EESは、生産活動、サービス、あるいは信用組合にかかわる共同経営事業だ。1980年代、「雇用危機、非公式経済の成長、高い失業率と雇用の不安定」を受けてブラジルに現れた、とサンチェスは言う。

主な業種は小規模農業だが、漁業、手工芸、熱帯雨林製品、鉱業、小規模なワークショップ、廃棄物リサイクリング、小売業、信用組合、その他のサービスも全て連帯経済において一定の地位を占めている。

組合と非政府組織(NGO)主導の下、国家連帯経済局とブラジル連帯経済フォーラム(FBES)の創設に伴って、2003年EESは大きな後押しを受けた。設立を推進したのは、2001年ブラジル南部の都市ポルト・アレグレで初の国際会議を開いた世界社会フォーラムだった。国家連帯経済局は、EESがビジネスノウハウや市場、資本を得る機会を広げようと模索している。当局では、経営や適正技術に関する研修の実施、技術援助の提供、マーケティングフェアの開催、フェアトレードの調整、設備や道具の購入のための信用機関の供給を行っている。

サンチェスは、これまでに達成した主な成果として、「連帯経済セクターにふさわしい公共政策を制定すること」を挙げている。彼によれば、活動家の究極の夢は、連帯経済が社会・経済生活において支配的な勢力となることである。

非政府機関、大学機関、政府職員、社会運動によって構成されるFBESによれば、連帯経済の主な目的の一つは、「私的蓄財をする代わりに、人間を経済活動におけるアクティブな一員とその最終目的とする」ことにある。

連帯に基づくブラジルでの新たな取り組みは、「失業との闘いにより」始まった、とリマは言う。「これらの取り組みは、それまでただ賃金を求めていただけの労働者たちの世界観を変えた」今では彼らは、より良い生活を重視するようになり、これまで以上に大きな安全保障と自らの運命に対するコントロールを手に入れた。

しかしその一方で、サンパウロ・カトリック大学教授兼経済学者であり、分権的計画・管理の専門家であるラディスラウ・ダウボール教授は、連帯経済セクターの範囲は限定的であり、人口のほぼ半数が「制度から排除される」この国では、広い意味での「包括的生産」に含まれる多くのオルタナティブの一つとして考えるべきである、とIPSに語っている。「排除されるこれらの人々は無知ではない。自分たちの置かれた状況をしっかりと認識しており、圧力をかけているのだ」とダウボール教授は言う。

更に教授は、1億人近くの人々を開発過程に巻き込む巨大な挑戦には、組織された市民社会、地域開発を支える政策、非貨幣経済、ボランティア活動のようなサブシステム間のネットワーク的なつながりが必要だとしている。そして、富の指標は、国内総生産(GDP)の算出範囲を超えて採用するべきだ、と経済学者でもある彼は主張する。というのも、一部の活動家は、現金をほとんど必要とすることなく「素晴らしい」結果をもたらしているのだ。

彼はその一例として、1983年に設立されたブラジル・カトリック教会子供牧師プログラムを取り上げた。当教会は、全国で30万人以上の現地ボランティアを採用し、訓練してきた。当プログラムは、子供1人当たり1ヶ月0.78USドルの費用で子供の死亡率を著しく減少させた。ダウボール教授によれば、最近では、GDPの上昇とは別に、マイクロクレジットの利用が可能になったこと、数千万の労働者および年金生活者が恩恵を受ける最低賃金が引き上げられたこと、貧困者のためのソーシャルプログラムが整備されたこと、そして正規雇用が拡大したことによって、「ブラジル経済成長の質」が改善されてきており、これら全てが地域経済を活性化しつつあるという。


2009.09.10 Upload

元の記事:
http://www.populareconomics.org/ussen/node/73
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