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連帯経済へ向けてのベネズエラの実験 

取材:ウンベルト・マルティネス
カラカス、 11月17日( IPSの取材に応じ)

ベネズエラでは、政府から財政支援を受けた協同組合が、原油価格の急騰と同時に急増し、新しい社会経済モデルの基盤を築こうとしている。一方で、実体の無い協同組合の設立や自己資金の欠如といった弱点が見られるようになってきた。

カラカスの西に位置するファブリシオ・オヘダと呼ばれる“内発的発展の核”(Endogenous Development Nucleus)は、12年以上も閉鎖されていた燃料配給基地兼倉庫内に作られ、衣料品や履物の協同組合、国立医療施設、公園、高齢者によって管理される菜園などに再生された。隣には、政府食料援助計画に基づく市場があり、その付近には、図書館、コミュニティ活動施設、食堂、保育施設、ラジオ局、コンピューター施設など住民の要望に応じた事業が立ち上がる予定である。生産活動に関する事業計画評議会も開かれており、例えば、履物協同組合では、組合評議会と地域住民の合意の下、通学用の単一モデルの靴を低価格で提供している。

その履物組合では、公定最低賃金の月188ドルより若干低い、186ドルを毎月の報酬、すなわち、利益分配として支払うことに合意した。衣料品協同組合の一人は、1日7時間、週5日労働、月117ドルで働いている。協同組合の運営委員アナ・グエデスはこの低い賃金について、「我々は、労働法ではなく協同組合法に従って、給料ではなく、12月に分配される利益を前払いするという形を取っているためだ」と説明する。この昔ながらのやり方は、1844年に英国のロッチデールで最初の協同組合が設立され以来、世界中の協同組合でずっと利用されている。またこの慣習は、給与労働者に適用される労働法が求める支払い方法の一部を、回避できることを意味している。

ファブリシオ・オヘダは、このような経済、社会、政治活動のショーケースとなっている。時には、近隣の活動家たちの医療や土地利用の議論の場所として、また左派チャベス大統領政権による諸外国へのアピールの場所としても利用されている。

100キロ以上も南東に下った、ある国立公園と接する農村地帯にある元ラ・エルビラ・カカオ農園の大きな建物には、自然を利用して観光客を呼び寄せようとする、小さな協同組合の集まった“内発的発展の核”がある。この企画の責任者パウラ・カルデラロは、「19のグループが、この大きな建物の一部を宿泊施設として運営したり、ガイドとして働くための協同組合を作ったが、これで9万7000ドルの政府融資を受け取った」と説明した。そこでは、交通、工芸、ジャムや保存食づくり、アグロツーリズム「ココア・ルート」の整備、レストラン経営などの協同組合も現れている。また、30分ほど離れた場所では、地元農民による川辺のビーチリゾートの企画もある。

その近隣の人口3000人の町マカイラでは、軍が、道路、教会、小学校の修復に精を出しながら、また医療プログラムにも協力している。建設工事、交通、工芸、さらには、パン屋の協同組合も作られている。「中学校や診療所も必要だが、何より仕事自体が必要だ。」と住民は言う。

「私達のアイディアは、これら“核”内の協同組合同士を結び、マカイラとラ・エルビラとの間に観光ルートを造り、“核”と“核”とを繋げて内発的発展ゾーンを構築することです」とフアン・カルロス・ロジョ国民経済大臣代理は説明する。

「この計画を始めて一年。人々は、生産技術のクラスを受講し、協同組合を運営するためのノウハウを学びます。クラスは、数ヶ月に及びますが、受講中は、月80ドルの奨学金が支払われます。その後、新しいプロジェクトを企画し、融資を受け、実践活動を開始します。12ヵ月が経ち、26万人が卒業し、6800組合が設立され、うち60パーセントの組合が既に資金調達を終えています。協同組合は、125の内発的発展の核内に集められます。これは、国民数2600万人、労働力1200万人のこの国で、約20万人が共に作業をすることを意味します」とロジョは言い加えた。

政府の財政支援と組合設立要件の大幅な緩和により、ベネズエラでは、この協同組合がブームとなり、総数は、1998年の800から、2003年の1万、2004年の5万、そして6月末には、7万4200までに拡大した。

では、新しい協同組合設立の資金はどこから来ているのだろうか?ファブリシオ・オヘダの場合、“核”コーディネーターのウィンケルマン・アンヘルによると、国営巨大石油会社のペトロレオス・デ・ベネズエラから、建物改修や事業立ち上げなどに740万ドルの資金を受けた、と言う。また、同社副社長の一人、フランクリン・メンデスは、この二年の間に、ペトロレオス・デ・ベネズエラだけで、5億8500万ドルを“内発的発展”プログラムに投資したと述べている。

中央大学協同研究センターに所属するオスカー・バスティダス氏は、「最初の資金が支払われて、協同組合がすぐにでも解散しようものなら、底無し沼に金を投げ入れるようなものだ。簡単に協同組合を結成できるために、このような問題が発生してしまう」と警告している。つまり、協同組合活動への自己資金の投資という原則が欠落しており、代わりに、このプログラムは、政府が石油で得た収入を国民に再分配するための媒体となっている、と指摘する。

エリアス・ハウア国民経済大臣でさえ、登録上は協同組合としているものの、実際にはより収入を多く受け取っている幹部や給与労働者がいたり、不平等な仕事量や収入形態を取っている組合が多く存在していることを認めている。

「私たちの生活は、元々、自己中心的な資本主義スタイルから始まっていることはよく承知しています。このため、協同組合制度の特権が悪用されないように、政府の協同組合を監督する機関が検査プログラムを開始しました。私たちの目的は、チャベス大統領が“21世紀の社会主義”と呼ぶ、新たな社会経済モデルの基礎を作るということです。だからこそ、分かち合う社会組織に共存し、自分たちの生産活動を自ら組織するコミュニティ作りを優先しているのです」と同氏は付け加えた。

ファブリシオ・オヘダの“核”コーディネーターのアンヘルはこのように言う。「私たちオルガナイザーは、ずっとここに留まることはないでしょう。“核”がより強化され、コミュニティとそこの協同組合が“核”を持続できるようにする必要があります。私たちがコミュニティに権限を移譲する代わりに、コミュニティはうまく引き継げるよう準備をする必要があります。これは、すべて21世紀の社会主義を創りあげるための継続的な闘いなのです」。


2009.09.10 Upload

元の記事:
http://www.populareconomics.org/ussen/node/76
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