アジア連帯経済フォーラム
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協同組合型のケアハウス
――ホームケア施設の協同組合型モデル


取材者:ジョン W.ローレンス

アメリカ労働者協同組合連合(USFWC)の第2回大会での基調報告者は、Rick Surpinがつとめた。彼は1985年に、「協同組合ホームケア・アソシエイツ」(CHCA)を設立した。その組合は、アメリカで初めての労働者所有型の家庭介護(ホームケア)協同組合で、現在は1000名を超える質の高いホームケア労働者を雇用しており、その労働者オーナーは皆、アフリカ系アメリカ人とラテン系女性である。

CHCAの目的は、「質の高い仕事を通じて質の高い介護を行う」をモットーに、家庭ヘルスケア産業を革新することにある。その一環として、CHCAは多くの分社化組織を作り、現にRickは、「インディペンデンス・ケアシステム」(ICS)という組織の代表も務める。ICSは身体的自立困難者に対して、家庭での医療扶助(メディケイド)を業務とし、その年間の収入は5千万ドルになる。以下は、彼の報告の概要である。

○Rick Surpinの報告概要
私は労働者オーナーであるVivian Carrionとは、15年来の知り合いで、ずっと仕事をともにしてきた。現在彼女はCHCAの役員であり、労働者評議会(計20名)の一人である。彼女はすでにCHCAの設立以前から、無償で家庭介護の仕事をやっていた。家庭介護の補助者(aide)は、病院での看護師のそれと似てはいる。しかし、誰の助けも借りずに一人で切り回す仕事なので、その家庭の求めに応じ、親密な関係を確立し、その上で職務を果さねばならない。困難で努力を要する仕事だ。

 1980年代の家庭ヘルスケア産業はブームにあった。我々はCHCAを始めるに当り、二つの原則を立てた。一つは、労働者自身がその組織のオーナーになれば、最大の賃金と利益を得ることができる。二つ目は、質の高い介護はよい仕事の中からしか生まれない。

我々は第一の原則を実現できた。CHCAでの時給は平均して11.9ドルで、これは産業平均より20%高い。ここの年間退職率は、50〜60%という産業平均に比べて、20%にすぎない。昨年のCHCAの収入は2150万ドルで、うち210万ドルを内部留保することができた。労働者の70〜80%がオーナーであり、労働者しかオーナーになれない。役員会は13人で構成され、うち8名が選挙で選ばれる労働者オーナーである。

尊重と公平を基礎にした文化
CHCAの文化は、尊重と公平とを基礎としている。こうした文化があってこそ民主主 義を実行できるのであり、金儲けだけでは無理である。労働者所有の理念に充分応えられる組合作りをすることは、実に大変なことだ。我々の産業は労働者に賃金を払うまいとして、可能な限りそれを削り、自分の懐に収めようとしている。私は初めの3年間はほとんど不眠不休で、さまざまな試行錯誤をしてきた。時間労働を基礎としているこの産業では、いかにして安定した賃金環境を作れることができるのであろうか。

我々の未来は、医療介護(メディケア・高齢者及び身体的自立困難者向け)及び医療扶助(メディケイド・生活困窮者向け)の制度が発展する度合いにかかっていると、我々は見定めた。我々は、非営利の「専門職補佐員(paraprofessional)ヘルスケア施設」(PHI)を発足させた。それは、専門職補佐員のヘルスケア労働者を助成する政府プロジェクトを推進する施設で、その家庭介護訓練計画をニューヨークのブロンクスでスタートさせると同時に、上記のようなICSの組織も発足させた。

我々には決断しなければならないことがたくさんある。我々は看護サービスを行うこと はやめた。なぜなら看護師は医療業務上、補助員よりも高いランクとされており、組合の文化を支配してしまいそうだからである。我々は労働組合加入を認めた。労働組合についてはプラス面もマイナス面もあり、何の問題もなしに決まったわけではない。

私は多くの人の助けに支えられて、今こうしてここにいられる。「産業協同組合アソシエーション」(ICA・労働者協同組合の育成組織)やすばらしい仲間、とりわけPeggy Powell(CHCAの共同設立者)とSteve Dawson(上記ニューヨークのPHIの代表、かつICAグループの共同設立者)のおかげである。

何かのオーナーになること、そして良かれ悪しかれオーナーシップのセンスを身に着けることは、アメリカンドリームに向けた一つの要素である。

○報告に対する質疑応答
・成長経営について――我々は共同体的発展をめざしている組織なので、最大で200人程度の規模が良いのではないか。成長は非常に重要なこととだと考えており、この産業の中で生き残るためにそれは必要であり、その経営能力を培うのは容易なことではない。

・家庭ヘルスケア産業の市場について――私はニーズと市場とは違うことを学んだ。市場 はサービスに対する支払い能力で決まる。医療介護と医療扶助は、ともにその出費額を 削ろうとしている。ヘルスケア政策のあり方が、市場動向を決定するものとなっている。  なお、家庭介護産業ではほとんどの企業で残業代は未払いである。我々はおそらく、それを払っている唯一のところだろう。

・労働組合について――当初我々は、労働組合が協同組合の基盤を脅かすのではないかと 危惧したが、労働組合は大きな政治的な力を持っていることが分った。我々はこの産業に対する労働組合の影響力に期待している。さらに、我々が労働組合に加入していなければ、それに加入している企業とは契約できない。当初労働組合のスタッフは、我々を敵対関係にあるかのように対応していたが、現在では改善されている。

・労働者賃金と経営者報酬の比率について――労働者賃金は後者の10倍で出発したが、現在では11:1となっている。これはこの産業の他社より相当高い比率である。


2009.10.08 Upload

元の記事:
http://www.geo.coop/node/53
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