アジア連帯経済フォーラム
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未来を紡ぐ女性たち

著者:Luis Alberto Carro
〜インタープレス・サービス(IPS)~

2009年7月5日ウルグアイ、Rosario(IPS)―毎朝このウルグアイの街を、自転車や徒歩で通勤する女性達がいる。彼女達はCODEMURという女性から成る協同組合に向かう途中で、経営者の手で閉鎖された織物工場の運営を行っている協同組合だ。女性達は皆40〜60歳ほどの年齢で、織物工場”Sirfil y Drymar”の元従業員である。経営陣が従業員に払うべき賃金を支払わずに工場を閉鎖した後、従業員の有志がCODEMURを立ち上げたのだ。

経営陣は2007年に従業員を解雇し、商品や材料を全て持ち去ってしまった。そのため彼女達は工場を占拠することを決意し、労働省に工場再開の要請を働きかけた。

CODEMURは、交代制で工場を占拠し続けており、経営陣が機械を売却したり、衣類を製造して新しいビジネスを始めることができないようにしている。

このケースはまだ係争中で、彼女達が工場で仕事をする事はまだできない。そのため彼女たちは新しい作業場所を探した。

CODEMURは新しい作業場で1月に運営開始した。新しい作業場はメインストリートから2区画離れた場所に位置しており、実業家であるJaime Goldansky氏から賃借りしている。なお、彼は制服(作業着)の注文を最初にしてくれたお客でもある。

「夏が終わる前に、一般企業は冬の制服を買う。(1月から仕事を始めた)私たちは少し遅れを取っています。しかしそれでも私達は働きます。働くことこそが私達にとって重要なことです。」CODEMURのスポークスマンCristina Perdomoは楽観的に話す。そして連帯経済におけるこの経験が、どのように影響しているかを訴える。

現在は制服とシャツを作っているだけだ。なぜなら「今の機械では品質の良いものを作ることができません。性能のよい機械を買うには時間が必要です。」ある従業員は言う。彼女は織物工場で20年以上働いてきたベテランだ。

我々の「経営者なくしての労働はいかなるものか」という問いに、Perdomoは答える。 「一番難しいのは、自分達自身を組織化することです」 「私たちは依然として、裁縫や掃除婦などの仕事で働かなくてはならない。なぜなら私たちはまだここでの仕事だけでは生活していくためには不十分だからです。」と彼女は付け加える。 Sirfil y Drymarの経営陣について尋ねると、Perdomoは、戸惑った笑みを浮かべて答えた。「私たちはあれ以来彼らを見ていません。ですが時々彼らは弁護士を送り込んできます」

「彼らは決して私達が本当に工場を占拠したと思っていません。彼らは私達が諦めて撤退すると思っているに違いありません。でも私達は、まだ諦めません。私たちは働いた分の賃金が欲しいのです。」

〜好景気、暴落そして工場占拠
Sirfil y Drymarは織物工場を数十年にわたり運営してきた。敷地面積は8.5ヘクタール、工場の建物は4000平方メートルにも及び、ウルグアイの首都モンテビデオから140キロ程離れたColonia県を横断する国道沿いにある。

「従業員の多くは女性で、ブルージーンズやフェルト生地の衣服、ジャケット等の良質な衣服を作り、それら商品は主にアルゼンチン、チリやアメリカに輸出されていました」20年以上工場で働いていたPerdomoは話す。

「Sirfil y Drymarはモンテビデオに拠点を構えていましたが、ウルグアイの主要都市にチェーン店を持っており、そこでは高価な洋服もよく売れました。注文に間に合わせるため、従業員達は一日にいくつもシフトをこなさなくてはならない時もありました」

2003年、Sirfil y Drymarは、商品をアルミニウム・ブリキ工場(FUAYE)が使っていた建物に移すことを余儀なくされた。アルミニウム産業は、1990年代に工場閉鎖が相次いだ産業の一つで、当時は新自由主義政策が経済の主流で、閉鎖された工場が国中に溢れる状態となった。

閉鎖された工場が最も多かった地域が、ウルグアイの最も歴史ある町の一つRosarioであった。1775年に建設されたRosarioは、アルミニウムやブリキ工場、車のバッテリー工場、皮なめし工場、毛皮加工業、そして衣類産業などの、20世紀の数多くの産業発展の中枢を担ってきた。

ウルグアイの経済危機は、実質賃金の減少、失業率の増加そしてインフォーマル経済の拡大によって特徴づけられ、2001年のアルゼンチンの経済破綻に連鎖して起きた2002年中頃の金融危機で最高潮に達した。

このような状況下、Sirfil y Drymarは何とか2つの工場を存続させる事が出来た。しかし、それも長くは続かなかった。

「市場の不在」を主張するSirfil y Drymarは、労働組合を結成していないにもかかわらず不払い賃金の支払いを求めているRosarioの従業員達の抗議を不快に感じ、結果的には従業員解雇という形で対応した。「2007年の休日労働の半分相当の賃金しか払ってくれず、残りの賃金は決して払いませんでした。だから私たちは工場を占拠する事にしたのです」とPerdomoは話す。

占拠は、地元の労働組合及びウルグアイの全国労働者連合PIT-CNTの支援を受けていた。

彼女達の最大の理解者は、Funsa タイヤ工場労働組合員のLuis Romero、そしてグラスボトル製造を行っているEnvidrioの労働組合員Daniel Placeresであった。

Funsaは、2002年に工場閉鎖し、2006年にある投資家の支援により、労働者経営の工場を再開した。Envidrioは労働者の協同組織で―メンバー達はウルグアイのCristaleriasという会社のかつての労働者である―1999年に工場を占拠し、その6年後にベネズエラ政府の協力協定により運営再開となった。

「反対に、」Perdomoは話す。「私たちは衣類産業の労働組合には守られていませんでした」衣類産業の労働組合とは、Sindicato Unico de la Agujaの事である。

「最初、彼らは私たちを助けてくれました。しかし私たちの抵抗には未来がないと判断したのでしょう、次第に私たちは取り残されていったのです。」

〜工場の自主管理・運営へ〜
「私たちの家族は、たとえ賃金が払い戻される事がなくても、私たちが工場を占拠し続ける理由は何なのか、何度も聞いてきました。しかし、私達がやっていることを少しずつ受け入れてくれるようになりました。」彼女は言う。

実際、多くの女性が未来を諦め、抵抗をやめてその場を離れていった。

Rosarioの住民たちは、彼女達をサポートする者と、「もう争いごとを起こすのはやめよう、もし我々が働きたければ、皿洗いでも何でもするべきだ」と主張する者に分かれていた。 このような状況から、彼女達は、自分たちの抵抗を具体的な提議に変えていかなくてはならないと感じ始めた。

「あるColoniaのPIT-CNT組合員が、私たちにRomeroやPlaceresを紹介してくれました。まさにそこから始まったのです―私たちにとって全てが新しい経験でした」Perdomoは興奮気味に言う。

Sirfil y Drymarの元従業員の要求で、裁判所はFunsaに工場の機械の管理権を与えた。「従業員が新しい場所で働き始めるまでは、我々が無条件に責任を持ちます。」Romeroは2008年10月、地元紙Noticiasでこのように語った。

「ウルグアイには協同組合運動、そして一般法そして(特別な人・地域にのみ適用される)特別法が、深く根づいている。」研究者であるAlfredo Camillettiが、彼の論文の中で語っている。

ウルグアイの左翼政党Broad Frontは、産業省主催の事業経営セミナーを実施している。 「政府は私たちを正しい方向に導いてくれました。」Perdomoは話す。

また、Colonia知事のWalter Zimmerは女性向けの事業経営セミナーを開催することを決めた。

彼の論文”Camilletti”(ウルグアイ共和国大学との共同論文)の中でこのように主張している。「この国では地方自治体や裁判所は、労働者達が経営者から未払賃金の払い戻しを受けるられるよう労働者団体の支援を行ってきた。そして、彼らの要求の後ろ盾となる法の整備を望んでいる。」

彼は、労働者団体の抵抗に対して「すべてはゆっくりだが少しずつ(良い方向に)変わっていく」と話す。

CODEMURの広い作業場を見渡しながら、Perdomoは言う。「ここにはまだ8つしか機械がありません。でも私たちは施し物を求めているのではありません。ただ働きたいだけなのです。私たちのことを忘れないでください。どうか見捨てないでください。」


2009.11.03 Upload

元の記事:
http://www.solidarityeconomy.net/2009/07/18/womens-coop-occupies-factory-starts-production/
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